『  いとしい人 ― (4) ― 』

 

 

 

 

≪ !  誰か 出てくる! ≫

003は咄嗟に全員に脳波通信を送った。

 

    カサ −−− ・・・・ 

 

一瞬にして 彼らは建物や車の陰に身を潜めた。

 

まだ夜も浅い時間 ビル街には行き交うヒト達の足音が

かなり多く聞こえる。

表通りはイルミネーションも華やかに 夜の街の賑わいが

始まっていた。  

 

  しかし その一画はひっそりした闇が広がっている。

 

三友光学 ― ネオン・サインにしては暗い明りの文字だけが浮き上がる。

 

   キ ・・・  社員用の裏口と思われるドアが 揺れた。

 

≪ 誰だ?  ここの社員か ≫

≪ ・・・ ちがうわ。  ―  ヘレンよ! ≫

≪ そんなバカな!  彼女はウチで留守番してるじゃないか ≫

≪ ええ そうね。   でも ―  あれは ヘレン だわ。 ≫

≪ ―  ああ またあのケモノが変身しているのかも 

≪ ちがうわ。 わたしは 見ようと思えば身体の中まで

 見られるのよ。 ・・・ケモノなんかじゃないわ。

≪ しかし! ≫

 

  カタン。 ドアが開き 女性がひとり、出てきた。

 

「 みなさん? どうぞ出てらして  」

 

ヘレン、 いや 彼女とおぼしき人物は 誰もいない空間に向かって

話しかけた。

 

 「 !  ヘレン!!  君は ! 」

ジョーが真っ先に飛び出した。

「 ―  貴方が ジョーさん ですか 」

「 ヘレン・・・ ! 」

女性は 落ち着いた面持ちでジョーを見ている。

「 思った通りの方ね。 」

「 君は なぜここにいる?? ぼくらを出し抜いたのか? 

「 落ち着いてください。 

 私はヘレンではありません。 アンドロイドやサイボーグでもないです。

 でも ヘレンの行動は全部 ― 知っています、いえ・・・

 感じていますわ。 」

「 な なんだって ? 」

ジョーの後ろには 仲間たちが寄ってきている。

「 ヘレンは その事を知らないのです。

 いえ ・・・ わからないのです。 」

「 ?? 君の言っている意味がわからない・・・・

 君は ― 誰なんだ ? 」

「 ― 私は ビーナ。  ヘレンの姉妹の一人です 」

「 !! 」

彼女は驚愕し言葉もないサイボーグたちの方に歩いてきて

ジョーのすぐ前に立った。

「 ああ・・・ ジョーさん。 そうですね? 

「 え ・・・ ああ そうだ 」

「 そう。  ヘレンは あなたが好きなのよ 」

「  え ? 」

 

     ヴィ −−−−−− 

 

思わず声を上げた彼の後ろから 一条の細い光線が走った。

ビーナ と名乗ったばかりの女性は  その場に倒れこんだ。

彼は咄嗟に彼女を支えたが ・・・ 

 

「 !  ・・・ 003 !? 」

 

振り返った先に見たものは。

 

       スーパーガンを構えた003 だった。

 

「 !  な なにを ・・・ 」

「 安心して。 パラライザーよ。 

 誰か出てくる!  隠れて。 」

「 あ  ああ ・・・ いきなり乱暴だな 」

「 こんなところで騒ぎを起こすわけには行かないわ。

 早く! 隠れて 」

「 ・・・・ 」

ジョーは倒れた女性を抱え ビルの脇に隠れた。

 

   あ〜〜 やっと終わったぁ

 

   やれやれ 〜  なあ 一杯?

 

   お〜〜   あはは  ふ〜〜

 

賑やかな話声とともに ごく普通のヒト達がごく普通に通用口から出ていった。

この社で仕事をする < 普通の > 勤め人なのだろう。

 

003は じっとその建物を見つめている。

「 ・・・ 大丈夫。 中は ― 静かよ。

 ごく普通のオフィスね ・・・ ヒトはほとんど残ってない 

「 そう か 」

「 ん〜〜〜 地上の階は ありふれた会社だわ ・・・ 

「 彼女 ・・・ クルマに乗せてくる  」

ジェロニモ Jr. は 音もたてずに大事そうに女性を抱え

離れていった。

「 あ 頼む。 ・・・ ヘレンに連絡しておくか 」

「 ・・・・ 」

003は じっと索敵を続けている。

「 ・・・・    あ !! 」

「 どうした!? 」

「 006 と 007!  見つけたわっ 」

彼らは 帰宅の予定を過ぎても戻らず 連絡もなかったのだ。

「 なんだって?! どこだ、データを送ってくれ 」

「 待って。 ・・・ 地下・・・ B3 だわ。  監禁されてる・・・

 あ。 7が怪我してる・・・腕よ 」

「 そうか。 それじゃ ― 突入する。 」

「 俺もゆく 」

「 005 頼む。 003、詳しいナヴィを 

「 了解。  ― 受け取って 」

≪ 了解 ≫

彼らは会話を脳波通信に切り替え、音もなくビルの内部に

侵入して行った。

 

 

 ― 数十分後

 

「 帰還する 」

「「 了解  」」

 

ビルの中から 数人の集団が静かに出てきた。

人種 年齢 容貌も様々だが 彼らは一言も発せずに

停めてあったクルマで 立ち去った。

街には 行き交う人々もいるが 特に目を引くこともなく

気付いたヒトも いなかった。

 

ビルもすでに窓は明りが消えており 静まりかえっていた・・・

少なくとも外見は。

内部 ― 地下の階は ここも静まり返っていたが

それは 壊滅的に破壊された後の静けさだった。

 

サイボーグ達は負傷したグレートと大人を救出、一戦を交え

 ― 去っていたのだ。

 

     ヴォロ −−−−−−−−

 

ごく普通のクルマが 夜道を疾走して行った。

 

 

 

その夜  岬の洋館はかなり遅くまで灯りが点っていた。

― もっとも そんな些細なことを気にするヒトは周辺には いない。

いやいや 人家そのものがないのだから・・・

 

「 アイヤ〜〜〜  とんだ目ぇに遭ったで〜〜

 グレートはん 腕の具合はどないや 」

「 ああ ・・・ ドクターの迅速な処置のお蔭で

 もうこの通り さ 」

スキン・ヘッドの俳優氏は 傷めた腕をぶんぶん回してみせた。

「 はあん そらよかったなぁ  ピュンマはんの容態はどないね  」

「 もうほとんど回復した、とな 」

「 さよか〜〜   ほな また皆で御飯 頂けますなあ 」

「 まあ な。 ・・・ だが 」

俳優氏は言葉を切り 意味ありげな視線を奥に向けた。

一階の奥には 客用の寝室がある。

普段は使っていないが 今は ・・・ 御客サン が いる。

 

 

ヘレンは アタマを抱えていた。

比喩ではなく 文字通り、ずきずきしてきた額に両手を当てていた。

 

     ・・・ な  なに・・・?

 

     この・・・コの言ってることが わからない。

     このコ ・・・ 誰??

 

     なぜ 私とそっくりなの??

 

「 ヘレンさん ・・・ あら 大丈夫? 」

フランソワーズはホット・ミルクを運んできたが 驚いている。

「 妹さんより 貴女の方が具合が悪そうよ? 」

「 あ・・・  いえ あの。   ちょっと頭痛が 」

「 そう?  ・・・ ショッキングな晩だったわね 」

「 ・・・ あの このヒト ・・・ 誰なんですか 」

ヘレンは 心底気味悪そうに傍らのベッドの人物を見ている。

「 !  貴女の妹 と言っていたけど 」

「 そ んな   ウソです! 私は ・・・ あっ! 」

 

   パシンッ !  瞼の裏の火花が散った。

 

耐えきれず ベッドに顔を埋めた。

「 ・・・ 〜〜〜 ! 」

「 ヘレンさん!? 大丈夫? 」

「 ・・・ い  た ・・・い ・・・ 」

ホワイト・アウトしそうな脳裏で あの声 がまた響く。

 

     くくくく・・・

      ― そろそろ コントロールを弱めるか

     お前は ヘレン・ウィッシュボン という人物を

     演じていたのだ。

 

「 !? だ 誰?? 私のアタマの中にいるの は  」

 

     すっかり役になりきっているようだな

     大した役者だよ お前は。

     我々がでっち上げた映像を

     お前の脳内に直接送り 信じ込ませただけだ

 

「 ・・・ う  そ ・・・ 」

 

     ふふん ・・・

     ヘレン・ウィッシュボンなる人物は 存在しない。

     お前は 我々BGの末端細胞のひとつ。

 

     くくくく ・・・

 

     細胞は本体のために 働くのだ

     そう磨耗するまで 擦り減らして な  

 

     くくくく ・・・

 

     ふふん とっとと働け !

     トカゲのエサ め!

 

 

「 !  ・・・ そ んな こと ・・・ 

 そんなこと ウソよ 〜〜〜  」

「 ヘレンさん  横になったほうがいいわ さあ 

「 ・・・ わ 私は ヘレン・・・ウィッシュボン ・・・ 」

「 ね 少し休んで ・・ ああ 貴女、もう起きられますか 

ベッドに横になっていた女性は ゆっくりと身体を起こした。

「 はい・・・ 平気です。

 どうか 姉を休ませてやってください。 」

「 わかったわ。  ヘレンさん・・・ ここに 

「 ・・・ 」

ヘレンは 倒れ込むように身を横たえた。

「 ・・・ そんな こと ・・・ ウソ よ 

「 お姉さん  ・・・ 混乱しているのね、しばらく休んで 」

「 え・・・っと ビーナさん でしたっけ? 」

「 はい。 ヘレンの妹、ビーナです。 」

フランソワーズの問いかけに 女性はしっかりした口調で答えた。

「 すみません  姉を休ませてください。 」

「 勿論よ。 頭痛かしら・・・

 あまり酷いようなら 博士になにか薬を貰うわ 」

「 ・・・ しばらく休ませて・・・ 」

「 そうね。  あ ビーナさん ホットミルクを持ってきたのですけど 

 いかが?  」

彼女は サイド・テーブルに置いたトレイを振り返った。

「 まあ  ありがとうございます。 」

「 ここに掛けて・・・ 」

「 はい。 」

二人は ベッドの横でぼそぼそと話し始めた。

「 ・・・ あ  美味しい ・・・ 」

「 よかった・・・ ふふ お砂糖多めにしたの。 」

「 こういうの、 飲んだの 初めてです。 」

「 え・・?? 

怪訝な顔のフランソワーズに ビーナと名乗った女性は

少し微笑んだ。

「 ・・・ 貴女 どこからいらしたの

 失礼ですけど 本当にヘレンの妹さん?  

 とてもよく似ていらっしゃるけど 」

「 ・・・・ 」

彼女は こっくり、頷き はっきりした口調で語りだした。

 

「 ― 私達は 地上人ではないのです 

「 ? どういうこと? 」

「 私と姉は 地底の帝国から来ました。 地底人です。 」

「 ち  てい人??? 」

「 姉は今 強力なマインド・コントロールを受けていて

 ・・・ 混乱しているのです。 」

「 誰の? 」

「 ― BGです 」

「 え! 」  

フランソワーズは 咄嗟に立ち上がり防御の体勢をとった。

「 それじゃ・・・ 貴女達もBGの手下 !? 」

「 最初は・・・。  BGは私達を解放してくれたので 

「 解放??  なに から ・・・? 

「 それは ― 」  

 

     こんこん・・・・ コトン。

 

ドアが開いて 大きな手がなにかを室内に置いて 引っ込んだ。

「 ?  あら。 これ オレンジ だわ えっと みかん?  」

「 ・・・ みかん ? 」

「 ええ とっても美味しいの。 召しあがってみて? 」

「 これは なにかの実ですか 」

「 そうよ。 初めて見た? 」

「 はい。 ・・・ 綺麗な色ですね お日様の光の色だわ 」

ビーナは手に取ったみかんを そっと撫で目の高さに持ち上げ

その形を その色を じっと眺めている。

「 お日様って 本当にステキですね  

 光や熱だけじゃないわ 私はあの光の色が好きだわ。

 ああ なんてステキな肌触り・・・ 」

色素の薄い髪を揺らし 彼女は蜜柑を頬に当て 香を楽しみ

肌触りを楽しんでいる。

「 あら そんなに蜜柑、気に入った? 」

「 ええ これは小さなお日様ね ・・・ 」

「 太陽・・・ お日様が好き? 」

「 はい。 お日様って 初めて見たんですもの 」

「 !  先ほどの話だけれど ・・・ 地底人って ・・・? 」

「 はい そうです。 勿論 ヘレンもそうです。

 私は BGのお蔭で地上に出ることもできたのです 」

「 う  そ ・・・ 」

「 BGは 私達をあのおぞましいトカゲ共から解放してくれたのです 」

「 と とかげ??? 」

「 はい。 ですから 私達はBGの計画に協力してきたの 」

「 そう ・・・ でも でもね! ヤツらは  」

「 わかっています。  ― だから 私は ・・・ ヤツラを

 裏切る決心をしました。 そうすることで姉を護ろうって 」

「 ヘレンは ・・・ やはりBGの・・・スパイなの ? 」

「 はい 残念ですけど。 姉は私達姉妹を助けるために BGへ・・ 」

「 そう ・・・ だったの ・・・ 」

「 はい。 でも姉自身は強いメンタル・コントロールを受けていて

 スパイをしている、という認識はないのです。 」

「 ずっとヘレン・ウィッシュボンだ・・・って 」

「 はい。 姉自身が深く信じているので周囲からはわからないでしょう 」

「 ・・・ なにが目的? わたし達、裏切りモノのゼロゼロ・ナンバー

 サイボーグ達の破壊 ?  」

「 私たちには BGの狙いはわかりません。 末端の存在ですから 」

「 では 貴女の目的は? ビーナ。 」

フランソワーズ、いや 003は真正面からこの娘を見据えた。

「 解放 です。 私達姉妹の そして 地底人すべての 」

「 解放、ですって?? BGからの? 」

「 いいえ。  ― 食用肉としての存在から。 」

「 しょく・・? なんですって? 」

 

   私達は ずっと ザッタンの食用肉 だったのです。

   BGは そのザッタンを追い払ってくれました。

 

「 ざ ザッタン って 貴女の言った トカゲ のこと? 」

「 そうです 地下に棲む巨大で凶暴なトカゲ ・・・ 」

「 そ の ・・・ トカゲの しょくよう・・・? 」

「 昔 地底人は多産系に改造されました ・・・

 食糧増産のために 

「 ! な なんですって!? そ そんなこと 有り得る?! 

 食用 ですって?? ニンゲンが?  信じられない ・・・ 」

「 事実です。 地底人はその目的のために飼育されていたのです

 長い長い間  ・・・  」

「 う ・・・ そ ・・・ 」

「 ウソじゃありません。 だから私達 解放されたい!

 その為には  なんだってするわ !!! 」

「 ・・・・ 」

「 ヘレンは  その為にBGのスパイになったわ。

 そして − 今  ジョーを愛し始めている・・・ 

「 ! 」

「 その心がわかったから ― 私は  BGを裏切ったの 

「 ・・・ 貴女も 休んだほうがいいわ ・・・

 安心なさってね  

 ・・・ 今 聞いたことはわたしからは誰にも言いません 」

「 ありがとうございます 」

「 ・・・ 」

 

   カタン。  003はそっと部屋を出た。

 

彼女自身 あまりなビーナの打ち明け話に くらくらと眩暈すら

感じつつ ・・・。 

 

 

「 ―  そう か ・・・ 彼女はごく普通の生身の女性だ。

 深い暗示をかけられていたら 本人にはわからんだろうな 」

博士は腕組みをしたまま 深くうなずいた。

「 わからない? 」

「 ああ。 自分はマインド・コントロールを受けている、と

 意識していない、 いや できない。 」

「 ・・・ まあ 」

「 自分自身でも信じておるのだから なあ ・・・ 」

「 じゃあ 意識せずに ― そのう スパイをしていた? 」

「 そうじゃ。  あの妹は 姉の行動や心理が < わかる > と

 言ったのだろう? 」

「 はい。 姉妹の間で意識は 共有 なのだそうです。

 姉の見るもの・聞くことは 全部同時に妹もキャッチしているのですって 」

「 ふうむ ・・・ 一種の超能力じゃなあ ・・・ 」

「 ・・・ 」

「 それに 地底人だ と言ったのか ・・・ 」

「 はい  本当でしょうか 」

「 ううむ ・・・ 荒唐無稽な作り話 と誰が言えるかね? 

 地球は まだまだ未知の星なのだからなあ 」

「 ・・・・ 」

フランソワーズは 暗い顔で頷いた。

 

     ザッタンの 食用肉だったのです

 

あの彼女の暗い暗い瞳が その奥に燃える炎が 胸に迫る。

 

「 とにかくとんでもない異変が世界中で勃発しておる。

 我々が 火中の栗を拾うことになるだろう 

「 博士 ― 」

「 きみには ・・・ 本当にすまない。

 ワシから皆に話す、このまま 故郷にお帰り 」

「 え ? 」

「 思慮浅く、君を呼び寄せてしまったが。

 ジョーから聞いたよ。  夢の第一歩が叶ったね おめでとう。

 さあ このまま故郷に帰り 普通の人生を送りなさい  」

「 博士! だってわたし 003 」

「 はっきり言おう。 今回は  生きて戻れるか確証はない。

 それにな ドルフィン号を大幅に改造しレーダー網も

 003基準 とした。 

「 博士 それは  

 ― オンボロ・003 はもう必要ない ということですか  」

「 なにを言う!  きみは大切な仲間の一員じゃ。

 一員だからこそ  しあわせになってほしい。 」

「 しあわせ ・・・? 

「 それが ワシが君にできる唯一の罪滅ぼしじゃ ・・・

 君は君の望むままに君自身の道を 行きなさい  」

フランソワーズは こっくりと頷き 真正面から博士を見た。

 

  「 はい。 ではわたしは自分の意志で ― 皆と行きます 」

 

「 ! ・・・ 本当に よいのか 

「 わたしの選んだ道 です。 

 それに ドルフィン号には負けたくありません。 

 ご存知ですか? わたしは 003、ドクター・ギルモアの

 最高傑作 ですわ。 」

「 ・・・ 」

博士は 目尻に涙を浮かべつつ 003を見つめた。

 

     ありがとう よ ・・・ すまんなあ  

 

「 わたしはわたしの意志でここに来ました。

 003は ゼロゼロナンバー・サイボーグの一員です。 」

「 ・・・ そうか 」

「 行きます。 仲間たちと共に ― 地の果てまでも 」

「 ・・・ 」

ドクター・ギルモアは いつもの厳しい表情にもどり 頷いた。

 

博士の言の通り 彼らは < 異変 > に巻き込まれ ―

その本拠地すらも捨てることとなる。

 

    そして 闘いの地  ―  地下帝国へ !

 

 

 

   ヴィ −−−−−

 

ドルフィン号は低い振動と微かな音をたて 驀進してゆく。

コクピットでは 落とした照明の中 サイボーグたちが

黙って作業に没頭している。

 

「 ・・・ 私は ・・・ 誰なの ・・・ 」

ヘレンは コンパートの小さな窓から外を眺めている。

   コンコン   低いノックが聞こえた。

「 ? はい? 」

「 私。 ビーナよ 入れて 」

「 ・・・ 」

返事はなかったが 静かにドアが開いた。

「 気分はどう? 頭痛は少しは軽くなったかしら 」

快活な口調に 彼女は曖昧に首を振った。

「 ・・・ ・・・ 」

「 そう・・・ ここは狭苦しいわね

 ねえ コクピットに来ない?   厨房でもいいわ。

 皆さんのお手伝い しましょうよ 」

「 ・・・ ビーナ・・・さん  貴女は どなた 」

ヘレンは 自分と同じ顔におどおどと尋ねた。

「 ヘレンお姉さん!  ああ まだマインド・コントロールから

 完全に抜けていないのね?  ねえ 私の思っていること、

 わかる ・・・? 」

ビーナは真正面から 彼女を見つめている。

「 ・・・ そんな ・・・ ヒトのココロの中なんて

 わかるはず ないわ ・・・ 

「 う〜〜ん ・・・ じゃあ 貴女はなにをしたいの 」

「 私は ・・・ わ 私は ・・・

 ヘレン   ヘレン・ウィッシュボン ・・・

 ! パパを ドクター・ウィッシュボンを探す ・・・の 」

「 そう? 貴女の本当の仕事は なに 

「 ・・・ 私 ・・・ 私たち姉妹の  解放 ・・・ 」

「 ああ 少しづつ思い出してきたのね! 

 そうよ でもそのためには ここのヒト達に協力しなくちゃ 

「 ええ そうね。 私 ・・・ ジョーを助けたいの。

 彼のミッションに協力するわ! 」

「 ― お姉さん。  彼が 好き? 」

「 ・・・ 好き。 私 ・・・ ジョーが好き! 」

「 そう ・・・ 今はそれを言わないで。  」

「 わかってるわ。   ― 多分 闘いになる 」

「 そう ね。  あそこに戻って ね 

「 あそこ ? 」

ビーナは答えず 暗い瞳で姉を見つめていた。

 

    ヴィ −−−−−     地下へ !

 

ドルフィン号は翼を低くして進んでゆく。

 

 

コクピットの中も 低く響く機械音だけが流れていた。

メンバー達は 落ち着いた面持ちでそれぞれ受け持ちの部署についていた。

「 このまま行くか?  ちょいと無用心じゃねえか 」

パイロット席で 002が声をあげる。

「 へえ 珍しいね 君がそんなこと言うって 」

隣のサブ席で 009が面白がっている。

「 へ! 俺だってさ  地下を飛ぶなんて初めてだし?

 地図もね〜しよ〜〜 」

「 そうだね   あ ヘレンに聞いてみようか 」

「 んだな〜〜 出身者に聞こうぜ 」

「 うん。 よかったら呼んでこようか 

「 お〜〜 いいねえ〜 美人ちゃん歓迎〜〜 」

「 おい! 」

コンソール盤のある席から 鋭く一言が飛んできた。

「 真面目にやれ。 ここは・・・敵地だ 」

「 へいへ〜〜い  お〜〜〜 コワ ・・・

002は肩を竦めつつ ぱちん、とウィンクした。

「 彼女 呼んでこいよ  」

「 あ  うん 」

009は 席を立とうとした。

「 その必要は ないわ。 このままで ― 大丈夫 」

「 へ?? 」

「 え・・・ ああ 003・・・ なにか見える? 」

「 障害物ナシ。 直進可能 」

003はレーダーを見つめ 抑揚のない声で言った。

「 了解。 003のデータが一番信頼できる。

 このまま −  行ける処まで行こう。

 勿論 細心の注意と観察を伴って だ。 」

司令塔、004の指示は簡素だが的確だ。

「 お〜〜  ま 俺さまのテクを信頼してくんな〜 

「 慎重に と言っている。 

 ここは敵地だ、何回も言わせるな 」

004の声は愛想の一欠片もないが それが皆の安心材料になる。

 

    ・・・ 大丈夫 行ける!

 

全員がそう信じた時 それは確固たる自信になるのだ。

 

「 ・・・ 」

009は 隣の席に軽く合図をし 席を立った。

彼は データを見つつレーダー席まで来た。

モニターに身を屈めて 彼は低く言った。

「 ・・・ フランソワーズ 」

「 なに 」

「 あの ・・・ ごめん。 彼女のこと・・・」

「 なにか ? 」

「 きいてくれよ。 ぼくはヘレンが哀れでならないんだ  」

「 それは  同情?  それとも 愛情かしら 」

「 ! そんな愛情だなんて ・・・ 」

「 ちがうの 

「 違う。   ぼくは    ぼくが好きなのは ―  きみ。 」

「 メルシ。 信じてもいいのかしら 

 この場凌ぎじゃなくて? 」

「 きみが信じてくれなくても きみがそう思ってくれなくても

 ぼくは  きみが好きだ。 

「 ・・・ ジョー ・・・ 」

やっと碧い瞳が ジョーをまっすぐに見つめてくれた。

 

    

     ドン。   軽い衝撃とともにドルフィン号は停止した。

 

「 !? 」

「 障害物か 」

「 !  なに これ。 岩壁が ・・・ いきなりあらわれたわッ 

「 だめだっ  行きどまりだぜ〜〜〜 」

レーダー席 と パイロット席から同時に声が上がった。

「 いきなり現れた? 」

「 ええ。 直前までレーダーには障害物はなにも映ってないわ。

 わたしの 眼 にも ・・ 」

「 あっぶね〜〜〜 もうちょいスピード上げてたら 激突だぜ 」

「 損傷は 」

「 あ ・・・ ナシ。 今のところ損傷自動探知の反応はないね 」

「 ・・ん〜〜〜〜  大丈夫。 ドルフィンは無傷よ 」

003が 視線をコクピット内に戻した。

「 ちょい 調査してくっか 」

002はもう立ち上がっている。

「 なんかよ〜〜〜 でっかい空洞なんだぜ ここ 」

「 ・・・ そうだね。 ドームの中みたいだ 」

009も自動装置を確認してから席を立つ。

「 前進は不可能か 」

「 ん〜〜 それも調べてくるぜ  いこうぜ ジョー 」

「 待て。 ここから目的地の地下は まだ遠いのか 

004は 隅に席にいるビーナに聞いた。

「 ・・・ ええ 道程の だいたい半分くらいの所です。

 でも  」

「 でも? 」

「 ヘンだわ  こんな行きどまりは ないはず。

 それとも 最近大規模な地殻変動があったのかしら ・・・ 」

「 ・・・ ふん?  調査だな 」

「 行くわ。  あ ・・・ ヘレンさんかビーナさん。

 案内してくださる  」

003は ぱっと立ち上がると姉妹に明るく声をかけた。

「 え ええ ・・・ 」

「 さ  先に行きましょ    さあさあ 」

女性たちは とっとと艇外に出て行った。

「 ・・・ おい!? 気を付けろ 」

004の声が届く前に 彼女たちはハッチから出ていた。

「 ったく ・・・!  おい 009 」

 

   シュッ !   彼の言葉が終わる前に009の姿は消えた。

 

「 はあん カノジョを護るのはナイトの役目であるからして 」

「 ち。 先を越されたぜ〜〜 」

「 調査だ。 」

「 へいへい  んじゃ ちょいと行ってくらぁ 」

がしがしと 002は大股でコクピットを横切って行った。

 

 

  そこは ―    ぼう・・っと 仄かな明りが広がっていた。

 

「 地下なのに ・・・ 真っ暗じゃないのね 」

「 ええ ・・・ 地下帝国も薄い明りがあります。

 特殊な岩石が光るんです、 ほんの薄い光なんですけど 」

「 光る岩石 ・・・?  そんなものがあるの 」

「 はい・・・ でも ここは初めてだわ。

 ・・・ ご案内できるかどうか・・・

 地上に来たときは 違うルートでしたので 」

「 そうなの?  でも土地勘みたいなもの、あるかもしれないでしょ?  

 わたし達はまったく初めて来たのですもの。 」

「 ええ 調べてみます。   ヘレンお姉さんも  ここの空気を吸ったら

 もう少しはっきりするかも ・・・ 」

「 ・・・ そう だといいのですけれど ・・・

 なにか見覚えがある気もしますが ・・・ 」

ヘレンは 不安そうな面持ちで周囲を眺めている。

「 あ 仲間たちもドルフィン号から出てきたわ 」

「 ・・・ ジョー さん ・・・ 」

 

     !!  皆  気を付けて !!!  上 !!!

 

突然 003の悲鳴が飛んだ。 同時に ―

 

     ゴゴゴゴゴゴゴ  −−−−−−−  !!!

 

地鳴りと共に 頭上の岩盤が落ちてきた。

 

Last updated : 05,04,2021.            back    /    index   /   next

 

 

*********  途中ですが

え〜〜〜 今回の話は 

原作・あの名編 を熟読している  という前提で

書いています。

ここに出てこない種々のシーンは どうぞ皆さま

脳内補足してくださいませ  <m(__)m>